このシナリオは、金融資産として最も「安全」とされる米国長期国債が、マクロ環境(金利・インフレ)の変化によって株式以上の損失を出した事例を扱う。各イベントで「何の外部要因が・なぜ・どう債券を動かしたか」を3軸の枠組みで読み解いていこう。
FRBタカ派議事録リーク観測で年初から国債売り
2022年最初の取引日、TLTは-2.63%の急落で幕を開けた。前月のFOMCでテーパリング加速とバランスシート縮小(QT)の議論が行われたことが知られており、1月5日に公開予定の議事録への警戒が長期債売りを先行させた。10年利回りはわずか数日で1.5%台から1.7%台へ急上昇し、長期債保有者の損失が急速に膨らみ始めた。重要なのは「実際の政策変更より前に市場が動いた」こと——これが2022年を通じての基本パターンになる。
出典: CNBC (2022-01-05) / Federal Reserve (2022-01-05)
所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3
ウクライナ侵攻・エネルギーショックで長期金利急騰
2月24日のロシアによるウクライナ侵攻直後、市場は最初「安全資産」として米国債に資金を流し込んだ(利回り低下)。しかし原油・天然ガスの急騰がインフレをさらに長期化させるという見方が急速に広まり、翌週3月2日にTLTは期間最大の-3.42%を記録した。同じ地政学イベントでも短期(安全資産買い)と中期(インフレ加速→利上げ→債券売り)で逆の力が働くことが、この日の値動きに凝縮されている。
出典: CNBC (2022-03-01) / Center for Global Development (2022-06-01)
所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 7
FRBが3年ぶり利上げ開始(+25bp)、年内6回の追加利上げ示唆
FOMCは政策金利をゼロから0.25〜0.50%へ引き上げ、コロナ禍以降で初の利上げを実施した。FRBのプレスリリースによれば、FOMCは年内6回の追加利上げを示唆するドット・プロットも公表。この「利上げはスタートラインに過ぎない」というシグナルが、その後のTLTの中長期的な下落トレンドを固めた。25bpの今回の利上げ自体よりも、「どこまで上がるか」という経路の見通しがより強力に長期債価格を決定することが明確になった。
出典: Federal Reserve (2022-03-16) / CNBC (2022-03-16)
所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3
FOMC 50bp利上げ翌日に長期債急落
5月4日のFOMCでは50bpの利上げとバランスシート縮小(月最大950億ドル)が決定された。Powell議長は記者会見で「75bpは考えていない」と発言し、株式・債券ともに一時的に反発した。しかしTLTは翌5日に-2.74%の急落——市場は一夜明けてQTの規模と今後の50bp連続利上げの意味を改めて消化し、売り直したのだ。反応が当日だけでなく翌日に出ることも多いという債券市場の特性が現れた。
出典: CNBC (2022-05-04) / Federal Reserve (2022-05-04)
所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3
CPI 8.6%(40年ぶり高水準)で75bp利上げ観測が爆発
6月10日(金)にBLSが発表したCPIは前年比9.1%(実際には月間発表は翌7月のデータだが、6月発表分の8.6%を受けた反応)で市場予想を上回り、週明け13日にTLTは-3.14%の急落。10年利回りは3.4%台まで急騰し、FRBが翌週FOMCで異例の75bp利上げに踏み切るとの観測が市場を支配した。CPIは毎月のマクロカレンダーの中で長期債を最も揺さぶるイベントの一つだと、この局面は教えてくれる。
出典: U.S. Bureau of Labor Statistics (2022-07-13) / Bloomberg (2022-06-15)
所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3
FOMC 3会合連続75bp、ドット・プロットが4.6%の最終金利を示す
9月21日のFOMCで3会合連続となる75bpの利上げが決定された(FOMC声明)。ドット・プロットは2023年末の最終金利を4.6%と示し、Powell議長は「インフレを2%に戻すまでやり続ける」と明言した。翌22日にTLTは-2.55%下落。4.6%というターミナル・レートは一部の市場参加者の予想を上回るタカ派シグナルで、長期債への売り圧力を新たに加えた。このFOMCを境に、TLTは10月24日の安値80.01ドルへ向けて最終局面の下落に入る。
出典: Federal Reserve (2022-09-21) / CNBC (2022-09-21)
所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3
英国財政危機でBOEが緊急介入、長期債に一時的な急反発
トラス政権の大型減税計画でギルト(英国国債)が急落し、英国の年金基金が流動性危機に直面。イングランド銀行が9月28日に緊急の長期ギルト買い入れを発表したことで世界的なリスクオフが和らぎ、米国債にも安全資産需要が流入。TLTは+3.35%の急反発(期間最大の上昇日)を演じた。しかしFRBの利上げサイクルそのものは変わっておらず、翌月もTLTは安値を更新。カウンタートレンドの急反発は魅力的に見えるが、構造的なトレンドに逆らったポジションを建てることの危険性を示す。
出典: CNBC (2022-09-29) / Bank of England (2023-01-01)
所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 7
景気後退・FRBペース鈍化期待でTLT反発
10月24日に期間最安値(80.01ドル)を付けた翌日の25日、TLTは+2.91%反発した。一部のFRB当局者が「利上げペース鈍化の可能性」を示唆し始めており、景気後退懸念とともに「FRBが近く転換するかもしれない」という期待が台頭した。ここから実際のCPI鈍化・FRBのペース鈍化(11月に4回目の75bpを実施後、12月に50bpへ縮小)が確認されていくことで、TLTは期間終了後に本格的な反発トレンドへ移行する。底入れは「確認」されるのであって、「予測」で掴みにいくのは難しいことを、この時期の激しい値動きが教えてくれる。
出典: CNBC (2022-09-21) / Federal Reserve (2022-10-01)
所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3