なぜ株価は動いたか
ETF中級SPYSPDR S&P 500 ETF Trust2011-06-012011-10-31

SPY 2011:米国債格下げと欧州危機 — 史上初のAAA喪失が株式市場を揺るがした5カ月

2011年8月5日、S&PがAAA格付けを史上初めてAA+へ格下げ。翌月曜の-6.5%急落を筆頭に8月は乱高下が続いた。欧州債務危機との連鎖と、格付けという制度的(構造的)要因が主役で、企業業績でなくマクロ・制度変化が株価を動かすことを示す典型例。

STEP 1 ・ 前提知識

まず押さえる前提知識

予測の前に、この銘柄と『値動きの見方』の土台をつかみましょう。

SPYとは何か

SPY(SPDR S&P 500 ETF Trust)はS&P500指数に連動するETF。米国を代表する500社の株価加重平均指数を一本で取引できる。このシナリオでは米株式市場全体の動きと同義として読んでください。

格付け機関とは

Standard & Poor's(S&P)、Moody's、Fitch の3社が世界の主要格付け機関。国債や企業債の信用力を「AAA(最高)〜D(デフォルト)」のアルファベットで評価する。米国債は建国以来ずっとS&PのAAAを維持していた。

2011年夏の出発点

米国では2011年春から債務上限(Debt Ceiling)の引き上げを巡る政治対立が激化。ギリシャ危機が欧州全域に波及するリスクも高まっていた。株式市場は5〜7月を高値圏で推移しながら、両方のリスクを抱えていた。

ソブリン格下げが株式に効く理由

国債格下げは①長期金利上昇(借入コスト増)、②年金・保険など規約でAAA資産のみ保有を義務づける機関投資家の強制売り、③国家信用=企業信用の天井という3ルートで株式に波及する。直接の業績変化でなく、制度と信用の仕組みを通じた外部ショック。

キーワード

AAA格付け
S&Pが付与する最上位の信用格付け。デフォルトリスクがほぼゼロとされる。米国債は2011年8月まで、建国以来この格付けを維持していた。
AA+
AAAの1段階下の格付け。S&Pが2011年8月5日に米国債をこの水準に引き下げた(史上初)。Moody's・Fitchは同時点でAAAを維持し、実務的な影響は限定的だったが心理的ショックは大きかった。
債務上限(Debt Ceiling)
米国政府が法的に借入できる上限額。議会が毎回引き上げを承認する必要があり、政治対立で膠着すると『デフォルトリスク』として市場が反応する。
EFSF(欧州金融安定ファシリティ)
ユーロ圏17カ国が設立した緊急融資の枠組み。2011年時点の上限6250億ユーロをレバレッジして1兆ユーロ規模に拡充する合意が10月27日にまとまった。
オペレーション・ツイスト
FRBが2011年9月21日に発表した政策。短期国債を売って長期国債を買い、長期金利を引き下げることで景気を刺激しようとした。市場はQE3(量的緩和拡大)を期待していたため、発表後に失望売りが出た。
VIX
シカゴ・オプション取引所が算出する『恐怖指数』。S&P500の予想変動率を示し、20以下は平穏、30超は警戒、40超は極度の不安定とされる。2011年8月に45超まで急騰した。
ソブリンリスク
国家(ソブリン)の債務不履行や格下げリスク。政府の信用低下は長期金利上昇・財政緊縮を通じて株式市場に波及する。
フォワードガイダンス
中央銀行が将来の金利経路を市場に事前予告すること。FRBが2011年8月9日に『少なくとも2013年半ばまでゼロ金利を維持』と明示したのが、時間軸政策(カレンダー型)の初めての採用となった。

当時の市場環境(マクロ)

個別の決算(内部要因)だけでなく、金利・インフレ・FRBの姿勢といった「外部要因」の土台を押さえると、値動きの背景がイメージしやすくなります。

政策金利(FFレート)
0〜0.25%(ゼロ金利政策)
リーマンショック後に引き下げられたゼロ金利を継続。2011年8月のFOMCでは『少なくとも2013年半ばまで』の維持を初めて時間軸で明示した。
米10年国債利回り
3%台 → 2%以下(8〜9月)
格下げ後も米国債は安全資産として買われ、逆に利回りは低下。格下げ=金利急騰という直感と逆の動きが起きた点は学びどころ。
インフレ(CPI 前年比)
約3.6%(2011年夏)
2008〜2009年のデフレ懸念から一転、コモディティ高でインフレが高まっていたが、秋には落ち着いてきた。ダブルディップ(二番底)懸念と同時進行。
FRBの姿勢
ゼロ金利維持・オペレーション・ツイスト
バーナンキFRB議長のもと、追加量的緩和(QE3)への期待が市場で燻り続けた。9月にはQE3の代わりにオペレーション・ツイストを選択、市場は失望した。
欧州の状況
ギリシャ第2次救済協議・イタリア/スペインへの波及懸念
欧州中央銀行(ECB)がイタリア・スペイン国債の購入を開始したが、EFSFの資本増強交渉に時間がかかり不安が継続した。
株式市場の地合い
2011年5月高値から10月に約-19%調整(SPX 1,363→1,074)
8月は1週間で連日4〜6%級の乱高下を繰り返し、リーマンショック後最大の極端な変動日が集中した。
このあとの「予測」では、ある時点までのチャートと状況だけを見て、その後の値動きを当てます。 「いまどんな材料が出たか → 株価はどう反応しそうか」を考えてみましょう。

STEP 2 ・ 予測

予測してみる

その時点までのチャートと状況から、イベント後に株価がどう動いたかを当てましょう。

ローソク足+出来高+移動平均(50/200)2011-08-07 まで表示中

現在の状況
2011年夏、米国の債務上限交渉は長期間にわたる政治対立の末にようやく合意した。S&Pは以前から格下げの可能性に言及していたが、AAAを実際に下げるかどうかは不確定でした。

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2011年8月2日(火)、米議会が債務上限引き上げ法(予算管理法)を可決・成立させた。直後の週末(8月5日夜)にS&PがAAAを格下げすると仮定した場合、翌週月曜(8月8日)のSPYはどう動くか?

💡 経験則(基準率)
過去の国際金融危機での経験則: 制度的・前例のないショックは、事前に警告されていても実際の発生時に大きな市場反応を引き起こしやすい(想定内でも実際には織り込みきれない)。
※ 確率の話であって保証ではありません。「方向」より「起きやすさ」で考えましょう。

STEP 3 ・ 解説

何が起きたか — 要因の分解

チャートのマーカーをタップすると、その出来事の解説に移動します。

3軸分解(このシナリオの寄与)

外部 (マクロ・環境)

主役は格付け制度という『構造的リスク』と欧州債務危機という『地政学・マクロリスク』の連鎖。米国債のAAA喪失は前代未聞の制度的ショック、欧州はギリシャ・イタリア・スペインへの危機波及懸念が続き、両者が市場を圧迫した。個々の企業業績ではなく、ソブリン(国債)の信用という上位の構造が市場を揺るがした。

内部 (企業・業界ファンダ)

SPYはS&P500全体を保有するETFのため、個別企業の要因は平均化される。2011年の企業収益は概ね堅調だったが、ソブリンリスクという外部の嵐に圧倒された。個別株選別より市場全体のリスクオン/オフが支配した局面。

テクニカル・需給・心理

5月の年初来高値から8月の最安値まで約-19%の調整。200日移動平均線を大きく割り込み、VIXは8月に45超まで急騰。10月初旬の底値(85.09ドル)はテクニカルのサポートとなり、EFSF合意後の急反発(+16.9%)でV字の起点となった。

⚖️ 当時の弱気の主張

格下げ前後の弱気論には十分な根拠があった。米国の財政赤字は拡大し、債務上限交渉の泥沼化は政治機能不全を露わにした。欧州危機は南欧2カ国(イタリア・スペイン)のGDP合計が欧州全体の30%超を占め、ギリシャとは桁違いのリスク。Moody'sも米国格付けを『ネガティブウォッチ』に置き、二番目の格下げへの懸念が残った。VIX45超・売買が均衡しない市場は、さらなる大崩れの入口にも見えた。

🚫 無効化条件(何が起きたら逆か)

次のいずれかが起きていれば市場の早期回復はなかった: ①ECBがイタリア・スペイン国債購入を拒否し利回りが7%超へ(ユーロ崩壊シナリオ)、②Moody's・Fitchも米国を格下げし機関投資家の強制売りが連鎖、③FOMCがフォワードガイダンス(2013年ゼロ金利)を示さず市場が回復の拠り所を失う。これらが無効化条件で、『制御可能なリスク』のままに留まったことが10月の反発を可能にした。

マーカー色 =外部内部テクニカル・需給・心理

このシナリオでは、2011年6月〜10月の5カ月間にSPY(S&P500 ETF)を動かした出来事を8つに分解します。チャート上のマーカーは悪材料(belowBar)と好材料(aboveBar)で色分けされており、連日4〜6%級の乱高下が繰り返された8月と、10月の底打ち反発の構造を読み取ってください。

その他・構造的債務上限・財政制度

予算管理法成立 — 債務上限引き上げ合意も市場は売り

2011年8月2日、オバマ大統領が予算管理法(Budget Control Act of 2011)に署名し、米国の債務上限を即時4000億ドル引き上げた。これでデフォルト危機は回避されたが、市場は**SPY -2.55%**と売りで反応した。S&Pが以前から示唆していた格下げリスクが消えず、「债務上限解決 = 格下げ回避」とならないことを市場は見抜いていた。悪材料の回避と市場の回復は別物である。

💡 学び『悪いニュース(デフォルト危機)』が回避されても、市場はすぐに安心しない。格下げリスクという次のリスクが既に見え始めていたため、悪材料回避=上昇とはならなかった。危機回避と市場回復は別物。

出典: U.S. Congress (2011-08-02) / Wikipedia

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地政学・外部イベント欧州ソブリン危機・伝染

欧州危機がイタリア・スペインへ波及 — SPY -4.68%

8月4日、欧州中央銀行(ECB)がイタリア・スペイン国債の購入に踏み切らない中、両国の国債利回りが急騰した。欧州委員長バローゾ氏が政治的膠着を認める発言を行い、危機が「小国」ギリシャからGDPがはるかに大きいイタリア・スペインへ波及するリスクが鮮明になった。この日、SPYは**-4.68%**と2009年以来最大の下落に近い動きを見せた。

💡 学びソブリン危機は『小国だけ』では止まらない。ギリシャから始まった信用不安がGDP規模がはるかに大きいイタリア・スペインへ波及するリスクを市場が織り込み始めた。地政学(欧州統合の構造的脆弱性)が市場の主役になった日。

出典: Wikipedia / Washington Post (2011-08-08)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 7

その他・構造的ソブリン格付け格下げ

ブラックマンデー — 史上初のAAA格下げ翌営業日に-6.51%

週末の8月5日夜(金曜日の引け後)、S&Pが米国債の長期格付けをAAAからAA+へ引き下げた。史上初の格下げだ。財務省は2兆ドルの計算誤りを指摘したが、S&Pは格下げを強行。翌月曜8月8日(ブラックマンデー)、世界の株式市場は同時急落し、SPYは**-6.51%**と期間中最大の下落を記録した。VIXは45を超え、Dow Jonesは634ポイント下落した。

💡 学び格付けはルールと信用の『制度』。一度下げられると、AAA資産のみ保有を義務付けた機関投資家の強制売りという連鎖が起きる。企業業績・経済統計とは別の経路で株式市場を直撃する構造的ショックの典型。米財務省が計算誤りを指摘したにもかかわらず格下げが強行されたことで、格付け機関の政治的判断も露わになった。

出典: CNBC (2011-08-06) / Wikipedia / International Business Times (2011-08-06)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 8

マクロ経済FRBフォワードガイダンス・金融政策

FOMC — 『2013年半ばまでゼロ金利』を初めて明示し+4.65%反発

格下げ翌日の8月9日、FOMCは「少なくとも2013年半ばまで政策金利をゼロ付近に維持する」と初めてカレンダー型の時間軸を明示した(フォワードガイダンス)。これ以前はFRBは具体的な時間軸を明示しておらず、初めての「いつまで」コミットメントは不確実性を一気に低下させた。SPYは**+4.65%**急反発し、前日の暴落から一転した。

💡 学び中央銀行の明確な『時間軸コミットメント』は、不確実性の霧を晴らす強力な安心材料。格下げ翌々日の急反発は、悪材料に続く政策対応が市場を落ち着かせた典型。金融政策(マクロ軸)は市場のリスクプレミアムを瞬時に動かすことができる。

出典: Federal Reserve (2011-08-09) / New York Fed Liberty Street Economics

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3

マクロ経済景気指標悪化・リセッション懸念

フィラデルフィア連銀指数-30.7・モルガン・スタンレーがリセッション警告 — -4.31%

8月18日、フィラデルフィア連銀製造業指数が-30.7と大幅に悪化(市場予想は-2程度)した。同時にモルガン・スタンレーが米国と欧州は「リセッションに危険なほど近い」と警告。格下げショックの余波が続く中で経済統計の急悪化が重なり、SPYは**-4.31%**と再び大きく売られた。欧州市場も5〜6%下落し、VIXが再度急騰した。

💡 学び格下げショック後もリセッション経済指標が重なると売りが再来する。悪材料の『一発目』より、続報が重なるときにレジリエンスが試される。センチメント(VIX)は制度的なショックだけでなく経済統計にも敏感に反応する。

出典: NPR (2011-08-18) / MPR News (2011-08-18)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3

マクロ経済金融政策・市場期待はずれ

オペレーション・ツイスト発表 — QE3期待に届かず翌日-3.23%

9月21日、FOMCは4000億ドル規模の「オペレーション・ツイスト」(短期債を売り長期債を買い換える)を発表した。しかし市場はより強力なQE3(量的緩和の拡大)を期待していた。「バランスシートを拡大しない限定策」に失望した市場はSPYを翌22日に-3.23%下落させた。政策は内容だけでなく期待とのギャップで評価される。

💡 学び政策は『内容』だけでなく『市場の期待とのギャップ』で評価される。QE3に比べてTwistは『バランスシートを拡大しない』限定的な策と受け取られた。期待が高いほど、期待に届かないと下落する——NVDAの材料出尽くしと同じ構造の、マクロ政策版。

出典: Federal Reserve (2011-08-09) / CNBC (2011-09-21)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3

地政学・外部イベント欧州ソブリン危機・ギリシャ

欧州危機再燃・期間中の最安値85.09ドル

10月3日、ギリシャへの第2次救済交渉が難航し、デフォルト懸念が再燃した。金融株(モルガン・スタンレー等)が10%超下落し、SPYは期間中の最安値85.09ドルへ到達(-2.85%)。VIXは42.96と極度の恐怖圏を維持した。しかしこの底値は、10月27日のEU合意という転換のカタリストが現れる直前の最後の暗闇だった。

💡 学び欧州債務危機は一度の救済合意では終わらず、次の救済交渉ごとに悪化リスクが再浮上する構造だった。長期にわたる制度的リスクは解決が難しく、市場の不確実性を長引かせる。最安値は多くの場合、次の転換のカタリストが現れる直前にやってくる。

出典: CNBC (2011-10-03) / Wikipedia

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 7

地政学・外部イベント欧州救済枠組み合意

EU首脳会議がEFSF1兆ユーロ拡充・ギリシャ債50%ヘアカットで合意 — SPY +3.48%

10月27日早朝、欧州首脳はギリシャ国債の50%ヘアカット、EFSFを最大1兆ユーロへ拡充、銀行資本増強1000億ユーロという包括パッケージで合意した。欧州銀行株は一日で最大25%急騰し、SPYは+3.48%上昇した。10月3日の最安値からこの日までの累積上昇率は**+16.9%**。合意は不完全でも、「崩壊を止める政治的意志がある」という確認が市場の底打ちカタリストとなった。

💡 学びリスクが構造的(欧州の制度設計の不備)から来るなら、解決も制度的対応(救済枠組みの拡充)しかない。合意そのものが不完全でも、『崩壊を止める意志がある』という政治的コミットメントが市場の底打ちカタリストになった。これは『安心感による反発』であり、問題の完全解決ではない点に注意。

出典: NPR (2011-10-27) / CNN Money (2011-10-27)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 7

各出来事の出典は、上の解説それぞれの末尾に記載しています。

お疲れさまでした 🎉

別のシナリオでも「なぜ動いたか」を分解してみましょう。