なぜ株価は動いたか
ETF中級EWZiShares MSCI Brazil ETF2022-01-032022-11-29

EWZ 2022:ブラジル大統領選×コモディティ高騰——地政学が新興国ETFを動かした

ロシア・ウクライナ侵攻による資源高でブラジル株は急騰し、10月の大統領選でルラ・ボルソナロの接戦が乱高下を生んだ。コモディティ輸出国という構造と地政学的選挙リスクが主役で、米FRBの利上げが逆風として重なった2022年の教材。

STEP 1 ・ 前提知識

まず押さえる前提知識

予測の前に、この銘柄と『値動きの見方』の土台をつかみましょう。

EWZ(iShares MSCI Brazil ETF)とは

ニューヨーク証券取引所に上場するブラジル株のETF。MSCI Brazilインデックスに連動し、ペトロブラス(石油)・ヴァーリ(鉄鉱石)・イタウ銀行などを主要構成銘柄に持つ。ブラジルはコモディティ輸出大国のため、原油・鉄鉱石価格の影響を強く受ける。

2022年初頭の状況

2022年1月時点のEWZは$20前後。FRBの利上げ転換懸念で新興国全般が重く、ブラジルでは10月に大統領選を控えていた。ボルソナロ(右派・現職)対ルラ(左派・元大統領)の対決が予告されており、財政・資源政策をめぐる不確実性が市場に漂っていた。

コモディティとブラジル株の関係

EWZの上位20%弱はペトロブラス(原油)とヴァーリ(鉄鉱石)が占める。原油価格が上がればペトロブラスの収益期待が上がり、EWZが上昇する仕組み。この点でブラジル株は『コモディティ・プロキシ』として機能することがある。

新興国ETFと為替・金利の関係

FRBが利上げをすると米ドルが強くなる。新興国通貨(ブラジルレアル)は相対的に安くなり、外貨建て資産を持つ投資家には目減りとなる。また金利差縮小で新興国からの資本引き揚げが起きやすく、EWZのような新興国ETFには逆風になる。

キーワード

コモディティ輸出国
原油・鉄鉱石・大豆など1次産品の輸出が経済の柱となる国。ブラジルはその代表例で、資源価格が上がると経常収支が改善し通貨・株式が上昇しやすい。
ペトロブラス(PBR)
ブラジル国営石油会社。EWZ最大の構成銘柄のひとつ。政府が筆頭株主のため、大統領選の政策方針が株価・配当に直接影響する。
ヴァーリ(VALE)
世界最大の鉄鉱石生産会社でブラジルを代表する資源企業。中国の鉄鋼需要や鉄鉱石価格と連動しEWZの構成比も高い。
決選投票(ランオフ)
第1回投票で過半数を獲得した候補がいない場合、上位2名で行う第2回投票。ブラジル大統領選は過半数取得が必須。
財政支出上限(テト・デ・ガストス)
ブラジルが2017年に導入した歳出増加を前年インフレ率に抑える憲法規定。財政規律の柱として市場が重視した。
PEC(Proposta de Emenda Constitucional)
憲法改正提案。ルラ政権移行チームが提出した『移行PEC』は財政上限を超える支出を一時的に認めるもので、市場に財政懸念を呼んだ。
レアル(BRL)
ブラジルの通貨。EWZは米ドル建てのため、レアル安はドル換算のリターンを押し下げる。
IBOVESPA
ブラジルの代表的な株価指数。EWZはMSCI Brazilに連動するが、IBOVESPAとほぼ同方向に動く。
新興国ETF(EEM)
iShares MSCI Emerging Markets ETF。中国・韓国・インドなど広範な新興国株で構成され、本シナリオのベンチマーク。

当時の市場環境(マクロ)

個別の決算(内部要因)だけでなく、金利・インフレ・FRBの姿勢といった「外部要因」の土台を押さえると、値動きの背景がイメージしやすくなります。

米政策金利(FFレート)
0.25% → 4.00%(期間内)
2022年3月から利上げ開始、6月・7月・9月・11月に75bp刻みで引き上げ。ドル高・新興国売りの主因となった。
米CPI(前年比)
最大9.1%(2022年6月)
40年ぶりの高水準。FRBのタカ派姿勢を強め、新興国ETFへの逆風となった。
WTI原油価格
約77ドル(1月初)→ 約123ドル(3月高値)→ 約80ドル(11月末)
ロシア・ウクライナ侵攻で急騰後、景気後退懸念で反落。ブラジルのEWZ前半高・後半安と連動。
ブラジル政策金利(Selic)
9.25%(年初)→ 13.75%(8月〜)
ブラジル中央銀行はインフレ対策で積極利上げ。レアル支持に寄与したが、成長懸念も増した。
ブラジル大統領選
第1回: 10/2(ルラ48.4%, ボルソナロ43.2%)/ 決選: 10/30(ルラ50.9%勝利)
予想外の接戦が続き、選挙結果ごとにEWZが急変動した2022年最大の政治イベント。
新興国全般の地合い
EEM年間 約-22%、ブラジルEWZ +17%(新興国内で相対的に堅調)
ドル高・中国ロックダウンで新興国が軒並み下落するなか、コモディティ収益でブラジルが突出してアウトパフォーム。
このあとの「予測」では、ある時点までのチャートと状況だけを見て、その後の値動きを当てます。 「いまどんな材料が出たか → 株価はどう反応しそうか」を考えてみましょう。

STEP 2 ・ 予測

予測してみる

その時点までのチャートと状況から、イベント後に株価がどう動いたかを当てましょう。

ローソク足+出来高+移動平均(50/200)2022-10-02 まで表示中

現在の状況
世論調査ではルラが第1回で過半数を取って当選する可能性が高いと予測されていた。

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2022年10月2日(日曜)のブラジル大統領選第1回投票の翌営業日(10月3日)、EWZはどう動くと予想するか?

💡 経験則(基準率)
選挙サプライズ後の翌日に+5%超の動きは、新興国ETFで歴史的に月1回程度の頻度で起こる。
※ 確率の話であって保証ではありません。「方向」より「起きやすさ」で考えましょう。

STEP 3 ・ 解説

何が起きたか — 要因の分解

チャートのマーカーをタップすると、その出来事の解説に移動します。

3軸分解(このシナリオの寄与)

外部 (マクロ・環境)

ロシア・ウクライナ侵攻(2022年2月〜)で原油・鉄鉱石が急騰しブラジル輸出企業(ペトロブラス・ヴァーリ)の収益期待が高まり年前半を主導した。10月の大統領選(ルラ vs ボルソナロ)が最大の不確実性で、結果ごとに市場が激しく反応した。FRBの急速な利上げによるドル高・新興国売りが年央以降の逆風となり、選挙後のルラ財政拡張策への懸念が最終的な重しとなった。

内部 (企業・業界ファンダ)

EWZの上位構成銘柄はペトロブラス(石油)、ヴァーリ(鉄鉱石)で、コモディティ価格連動が強い。選挙前後はペトロブラス国有化・配当政策への懸念が銘柄レベルで浮上した。

テクニカル・需給・心理

2022-04-04に高値$29.06を付けた後に反落。10月選挙を前に$22〜$25の狭いレンジで推移し、選挙結果ごとにギャップを繰り返した。ボリンジャーバンドの収縮とボラティリティ急拡大がイベント前後に顕在化した。

⚖️ 当時の弱気の主張

当時の弱気の主張にも根拠はあった——ブラジルは政治リスクが高く、ボルソナロ政権下でペトロブラスへの政治介入(価格統制)が繰り返されていた。ルラ候補は選挙戦で財政拡張・国有企業への介入強化を示唆しており、財政規律崩壊とインフレ再燃リスクが指摘されていた。コモディティ価格も2022年後半に反落し始めており、年前半の上昇が持続しないと見る向きも多かった。

🚫 無効化条件(何が起きたら逆か)

次のいずれかが起きていれば読みは逆だった: ①原油・鉄鉱石価格が2022年前半に急落していた場合(コモディティ高騰がなければEWZの年前半上昇はなかった)、②選挙でルラが第1回投票で過半数を獲得せず泥沼化・混乱した場合、③ルラ当選直後に財政支出上限の撤廃が即座に議会通過し格下げ懸念が顕在化した場合。

マーカー色 =外部内部テクニカル・需給・心理

このシナリオは2022年のブラジル株ETF(EWZ)を題材に、地政学リスク(選挙)マクロ環境(コモディティ価格・FRBの利上げ) という外部要因がETFの値動きをどう動かすかを学ぶ教材だ。各イベントを読む際は「これはどの軸(外部・内部・テクニカル)の話か」「誰が勝者で誰が敗者か(輸出国 vs 輸入国)」という問いを持ちながら読み進めてほしい。

地政学・外部イベントウクライナ戦争・資源価格急騰

ロシア・ウクライナ侵攻でコモディティ急騰——ブラジル株は逆行高

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻後、原油・鉄鉱石・穀物が歴史的急騰を記録した。世界銀行は「ウクライナ戦争によるコモディティ価格急騰は数年間続きうる」と警告したほどの水準だった。ブラジルはペトロブラス(石油)・ヴァーリ(鉄鉱石)・アグリビジネスを主要輸出とするコモディティ輸出国であり、同じ地政学ショックで欧州・アジア株が下落するなかEWZは相対的に強く推移した。3月7日の-3.67%は停戦協議への期待と失望による揺り戻しだが、この週全体ではブラジルが新興国トップのパフォーマーとなった。

💡 学びコモディティ輸出国のETFは、資源価格と地政学リスクを結びつけて読む必要がある。同じ地政学リスクでも『インポーター(輸入国)』か『エクスポーター(輸出国)』かで株価の方向が真逆になる。

出典: World Bank (2022-04-26) / Bloomberg (2022-03-21)

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マクロ経済原油・鉄鉱石高値・選挙前財政刺激

EWZ年内高値$29.06——コモディティブーム全盛とボルソナロ選挙向け財政対策

4月4日にEWZは$29.06の年内最高値を記録した。WTI原油は100ドルを超え、ヴァーリの鉄鉱石輸出も高収益局面にあった。ボルソナロ大統領は選挙前対策として燃料税減免・ディーゼル補助金などを打ち出し、短期的な消費刺激が加わった。この高値は後から見れば「良材料の全部乗せ」局面で、4月以降は原油の反落とFRBの利上げ加速で下落に転じる。

💡 学びコモディティ価格の高値と選挙前の財政刺激が重なると、ETFは実態以上に買われやすい。ピークは往々にして材料の『全部乗せ』の瞬間に作られる。

出典: U.S. Energy Information Administration (2023-01-17) / Bloomberg Línea (2022-06-09)

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マクロ経済FRB急速利上げ・ドル高・新興国売り

FRB 75bp利上げ観測でグローバルリスクオフ——EWZ -4.95%

6月13日の米CPI(前年比8.6%)が予想を上回り、FRBの6月FOMCでの75bp大幅利上げが確実視された(6月15日に実施)。世界的なリスクオフが加速し新興国全体が売られ、EWZも-4.95%の大幅安となった。コモディティ高という追い風があっても、FRBのタカ派転換はブラジル株を無差別に巻き込んだ。 ドル高がレアル換算のリターンを押し下げ、新興国からの資本流出が実際に起きていた。

💡 学びコモディティ高でアウトパフォームしていたブラジル株でも、FRBの利上げが新興国全体への資本流出を引き起こすと無差別に売られる。外部(マクロ)軸と地政学軸は独立して動くことがある。

出典: Federal Reserve (2022-06-15) / CNBC (2022-11-10)

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マクロ経済FRBタカ派姿勢・ドル高・資本流出

FRB 9月75bp利上げ後のドル高——新興国売りでEWZ -4.72%

9月21日のFOMCで3回連続の75bp利上げを実施(政策金利3.00〜3.25%)。パウエル議長が「インフレが鎮まるまで利上げを続ける」と明言したことでドルインデックスが20年ぶりの高水準に達し、9月26日(月曜)にEWZは-4.72%急落した。選挙を6日後に控えた時期でもあり、政治リスクと金融リスクが重なったタイミングだった。新興国ETFへの投資においてFOMC日程は必須のカレンダー管理項目となる。

💡 学びFRBの政策はブラジル株のような新興国ETFの重要な外部軸となる。利上げ→ドル高→新興国通貨安→外国人投資家の実質損失、という波及経路を理解しておくことが重要。

出典: CNBC (2022-09-21)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3

地政学・外部イベントブラジル大統領選・市場予想外の接戦

ブラジル大統領選第1回投票——ボルソナロ善戦でEWZ +9.85%

10月2日の第1回投票でルラ48.4%、ボルソナロ43.2%と予想外の接戦となり決選投票(10/30)へ。世論調査でルラの第1回勝利を多くが予測していたため、結果は大きなサプライズとなった。10月3日のEWZは$22.83→$25.05へ+9.85%急騰(出来高1.9倍)。市場はルラの急進的な財政政策が「即座に実行されるリスク」が後退したと判断した。 ペトロブラス・ヴァーリなどEWZ主要銘柄も軒並み急騰した。

💡 学び選挙結果は『誰が勝ったか』より『結果が事前予想とどれだけずれたか』で市場が動く。ルラが勝利したにもかかわらずEWZが急騰したのは、財政リスクが一段階薄れたと市場が判断したから。

出典: NPR (2022-10-02) / InvestorPlace (2022-10-03)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 7

地政学・外部イベントルラ当選・選挙平和的終了・不確実性解消

決選投票: ルラ僅差当選——平和的移行でEWZ +3.88%

10月30日の決選投票でルラが50.9%対49.1%で僅差当選(TSE公式)。史上最接戦の選挙は暴力や混乱なく終わり、10月31日のEWZは+3.88%上昇した。ルラ当選自体は既に市場がある程度織り込んでいたため、急騰はなく小幅高にとどまった。Bloomberg は「投資家は選挙プロセスの平和的終了を歓迎した」と伝えた。一方で財政政策への懸念はこの時点でまだ価格に十分織り込まれておらず、次の急落の種となった。

💡 学び選挙後の最初の市場反応は『政策の良否』より『不確実性の解消』で動きやすい。ルラの財政拡張方針への懸念があっても、選挙自体の平和的終了がまず買い材料となった。

出典: NPR (2022-10-30) / Bloomberg (2022-10-31)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 7

その他・構造的財政支出上限撤廃懸念・PEC移行案

ルラ財政拡張策の懸念——EWZ -6.53%、レアルも急落

ルラの政権移行チームが財政支出上限(テト・デ・ガストス)を超える大型社会支出を正式に示唆し、ブラジルの財政規律崩壊リスクが顕在化した。ブラジルレアルは1日で約3.4%急落、IBOVESPAは3%超安、EWZは-6.53%となった。同日の米国CPI(7.7%、予想下回る)は世界株に好材料だったが、EWZはブラジル固有の政策リスクで逆行安となった。選挙後のハネムーン期間はわずか10日で終わり、政策の中身が価格に反映され始めた。

💡 学び選挙で当選した候補の政策リスクは、当選後に具体的な形が見え始めたときに株価に織り込まれる。選挙直後の『不確実性解消ラリー』と、政策内容の判明後の『内容リスク売り』は別のイベントとして切り分ける。

出典: Bloomberg (2022-11-10) / CNBC (2022-11-10)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 8

各出来事の出典は、上の解説それぞれの末尾に記載しています。

お疲れさまでした 🎉

別のシナリオでも「なぜ動いたか」を分解してみましょう。