なぜ株価は動いたか
個別株中級AAPLApple Inc.2018-09-042019-06-28

Apple 2018–2019:中国減速とガイダンス下方修正を3軸で分解する

2018年秋〜2019年前半、Appleは中国減速と米中貿易摩擦を背景に急落した。決め手はiPhone台数開示の中止と、2007年以来初の売上見通し下方修正という『内部要因』。だが引き金を引いたのは中国経済の失速と関税という『外部要因』で、その後はサービス事業と大規模自社株買いで株価は回復した。

STEP 1 ・ 前提知識

まず押さえる前提知識

予測の前に、この銘柄と『値動きの見方』の土台をつかみましょう。

この銘柄について

Apple(AAPL)はiPhoneを中核とする世界最大級のハードウェア企業。当時は売上の約6割をiPhoneが占め、生産の多くを中国に依存し、中国(Greater China)は重要な販売市場でもありました。つまり中国の景気とサプライチェーンの両面で中国エクスポージャーが大きい銘柄です。

2018年秋の状況(出発点)

iPhone XS/XR世代を投入した直後で、株価は2018年10月初に当時の高値圏(調整後で約55ドル)にありました。一方、市場全体は2018年を通じた利上げ、米中貿易摩擦、世界経済の減速懸念で年末にかけて急速に不安定化していきます。

予測の前に押さえておく仕組み

・米国の決算は引け後に発表され、株価は翌営業日に反応します(時間差)。 ・『ガイダンス(次期見通し)』は実績以上に株価を動かし、企業自身が見通しを下げる『ガイダンス下方修正』は強い売り材料です。 ・関税や相手国の景気など、企業の外にある要因(外部要因)も、中国依存度の高い銘柄には直接効きます。 ・価格は2020年8月の4:1株式分割で調整済みのため、見かけの株価水準は当時の実取引価格より低く表示されます。

注目点(バリュエーションと依存度)

当時のAppleはハイテク大型株として相応の期待を背負っていました。注目すべきは『iPhone依存』と『中国依存』という2つの集中リスク。台数という重要指標の開示をやめ、その直後に中国起因で見通しを下げたため、市場は『成長の踊り場』と『情報開示への不信』を同時に織り込みにいきました。

キーワード

ガイダンス
企業が示す次期の業績見通し。実績以上に株価を動かすことがあり、企業自身が下方修正すると強い売り材料になる。
ガイダンス下方修正
企業が一度示した見通しを期中に引き下げること。Appleの2019年1月2日の下方修正は2007年のiPhone発売以来初で、極めて異例だった。
Greater China(中華圏)
中国本土・香港・台湾を含むAppleの地域区分。当時の売上の約2割を占め、減速の影響が直撃した。
サービス事業
App Store・iCloud・Apple Music等の継続課金型ビジネス。ハードより利益率が高く成長も安定し、回復局面で評価のよりどころになった。
自社株買い
企業が自社株を買い戻すこと。1株当たり利益を押し上げ、需給を改善する。Appleは2019年5月に750億ドルの追加枠を承認した。
ベア相場(弱気相場)
直近高値から約20%以上の下落。S&P500は2018年12月24日に一時この水準に達した。
ドローダウン
高値からの下落率。本シナリオではAAPLが高値から安値まで約-38%下落した。

当時の市場環境(マクロ)

個別の決算(内部要因)だけでなく、金利・インフレ・FRBの姿勢といった「外部要因」の土台を押さえると、値動きの背景がイメージしやすくなります。

政策金利(FFレート)
~2.25–2.50%(2018年12月に利上げ)
FRBは2018年12月19日にその年4回目の利上げを実施。引き締め継続姿勢がリスク資産の重荷となり、年末の急落を増幅した。
米中貿易摩擦
対中関税の発動・引き上げ(2018〜2019)
2018年後半から関税が段階的に発動。2019年5月には米国が25%へ引き上げ、中国が600億ドル相当の報復関税を発表して再燃した。
中国経済
2018年後半に減速が鮮明化
貿易摩擦と重なり中国の景気が失速。AppleはここでのiPhone需要鈍化を売上未達の最大要因に挙げた。
株式市場の地合い
2018年12月に急落 → 2019年前半は回復
S&P500は2018年12月24日に一時ベア相場入り(高値比約-20%)。2019年に入りFRBが利上げ停止に転じると相場は反発した。
Appleの中国依存
生産=中国中心 / 売上の約2割が中華圏
生産・販売の両面で中国エクスポージャーが大きく、外部ショックを受けやすい構造だった。
このあとの「予測」では、ある時点までのチャートと状況だけを見て、その後の値動きを当てます。 「いまどんな材料が出たか → 株価はどう反応しそうか」を考えてみましょう。

STEP 2 ・ 予測

予測してみる

その時点までのチャートと状況から、イベント後に株価がどう動いたかを当てましょう。

ローソク足+出来高+移動平均(50/200)2019-01-02 まで表示中

現在の状況
2018年12月にベア相場入りを経験し市場全体が不安定な中、引け後に経営トップ自らが見通しを引き下げました。台数開示の中止(前四半期発表)への不信も残っています。

ステップ 1 / 3
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2019年1月2日の引け後、ティム・クックが書簡で当四半期の売上見通しを840億ドルへ下方修正した(従来890〜930億ドル、約90億ドル減、主因は中国でのiPhone需要鈍化)。2007年以来初の下方修正だ。翌営業日(1/3)のApple株は?

💡 経験則(基準率)
経験則: 企業自身による異例のガイダンス下方修正は、市場予想を下回るサプライズとして翌日に強く売られやすい。-10%は大きいが下方修正ショックでは珍しくない。
※ 確率の話であって保証ではありません。「方向」より「起きやすさ」で考えましょう。

STEP 3 ・ 解説

何が起きたか — 要因の分解

チャートのマーカーをタップすると、その出来事の解説に移動します。

3軸分解(このシナリオの寄与)

外部 (マクロ・環境)

引き金となった軸。中国経済が2018年後半に減速し、米中貿易摩擦がそれに追い打ちをかけた。マクロ面では2018年12月のFRB利上げと『worst Christmas Eve』のベア相場入りが全体を押し下げ、2019年5月には中国の報復関税で再下落。中国生産・中国売上に依存するAppleは外部ショックに弱かった。

内部 (企業・業界ファンダ)

値動きの主因はここに集中。2018年11月の決算でiPhone等の販売台数開示を中止すると発表し不信感を招き、2019年1月2日には2007年以来初の売上見通し下方修正(840億ドル、従来890〜930億ドルから約90億ドル減)。逆に回復局面ではサービス事業の過去最高更新と750億ドルの自社株買いという内部材料が効いた。

テクニカル・需給・心理

高値(2018年10月の54.87ドル)から安値(2019年1月3日の33.74ドル)まで約-38%のドローダウン。決算・ガイダンスのたびに出来高急増を伴うギャップで上下し、悪材料出尽くし後の戻りも観察できる。テクニカル単独で動いたというより、内部・外部材料への反応として価格と出来高が振れた。

⚖️ 当時の弱気の主張

当時の弱気は十分に筋が通っていた——iPhoneは買い替えサイクルが伸びて成熟し、最大の成長市場だった中国が貿易摩擦で失速、しかも会社自身が台数開示をやめて減速を見えにくくした。マクロも利上げとベア相場で逆風。『成熟したハードウェア企業が成長の壁にぶつかった』という見立ては合理的で、実際2018年10月から2019年1月にかけて空売りは報われた。回復が見えたのは、サービスと自社株買いという“ハード以外”の支えが想定以上に効いた後のことであり、当初から自明だったわけではない。

🚫 無効化条件(何が起きたら逆か)

次のいずれかが起きていれば『回復』の読みは崩れていた: ①サービス事業の成長が鈍化し、iPhone減速を補えないと判明する、②米中交渉が決裂し関税が恒久化・拡大して中国売上がさらに毀損する、③FRBが利上げ路線を続けマクロの逆風が続く。逆に下落側の読みは、サービスの過去最高更新と大規模自社株買い、FRBの利上げ停止が確認された時点で無効化された。決算とマクロ転換のたびに、この前提が崩れていないかを確認するのが筋。

マーカー色 =外部内部テクニカル・需給・心理

このシナリオでは、2018年秋から2019年前半にかけてのAppleの急落と回復を、チャート上の6つの出来事に分解します。チャート上のマーカーは色が所属する軸(外部=アンバー / 内部=エメラルド / テクニカル・需給・心理=バイオレット)、ラベルが出来事の内容(決算・下方修正・関税など)を表します。値動きの主因は『内部要因』に集中しますが、その内部要因の中身は中国減速と貿易摩擦という『外部要因』が原因——軸の連鎖を読むのがこのシナリオの肝です。価格は2020年8月の4:1株式分割で調整済みのため、見かけの株価は当時の実取引価格より低く表示されます。

企業固有 (ミクロ)情報開示の後退 / ガイダンスへの不信

Q4決算とiPhone台数の開示中止 — 翌日-6.6%

2018年11月1日引け後、第4四半期(FY2018)決算は売上629億ドル(前年比+20%)と好調でした。ところが決算電話会議でCFOのルカ・マエストリが、翌四半期からiPhone・iPad・Macの販売台数開示をやめると表明。市場は「台数の減速を隠す動き」と受け取り、翌2日に株価は**-6.6%下落しました。数字は良くても、重要指標の開示後退という内部の姿勢**が嫌われた典型例で、ここで芽生えた不信が約2か月後の下方修正ショックの伏線になります。

💡 学び決算の数字自体は良くても、『重要指標の開示をやめる』動きは減速隠しと受け取られ、不信として売られる。何を見せなくなったかもファンダ情報の一部。ここで芽生えた不信が、約2か月後の下方修正ショックの伏線になった。

出典: SEC EDGAR (2018-11-01) / CNBC (2018-11-01)

所属軸: 内部 (企業・業界ファンダ) ・ カテゴリ 1

マクロ経済FRB利上げ / 世界景気減速

ベア相場入りの『最悪のクリスマスイブ』

12月24日、S&P500は直近高値比で約-20%に達し、一時ベア相場入りしました。FRBが12月19日にその年4回目の利上げを実施し引き締め継続を示したこと、世界景気減速と米中貿易摩擦への懸念が重なり、市場全体が急落した局面です。Apple固有の悪材料にマクロの全体安が重なって下げが増幅されており、個別株の下落は銘柄要因とマクロ地合いを分けて読む必要があることを示します。この安値圏は、約10日後の下方修正でさらに更新されます。

💡 学びApple固有の悪材料に、マクロ(FRB利上げ・世界景気減速・貿易摩擦)の全体安が重なって下げが増幅した。個別株の下落を読むには、銘柄要因とマクロ地合いの両方を分けて見る必要がある。この安値圏が約10日後の下方修正で更新される。

出典: CNBC (2018-12-24)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 3

企業固有 (ミクロ)ガイダンス下方修正 / 中国減速

2007年以来初の売上見通し下方修正 — 当日-10%

1月2日引け後、ティム・クックが投資家向け書簡で当四半期の売上見通しを840億ドルへ引き下げました(従来890〜930億ドルから約90億ドル減)。下方修正は2007年のiPhone発売以来初で、主因は中国(Greater China)でのiPhone需要鈍化。翌3日に株価は約-10%(-9.96%)のギャップダウンとなりました。引き金は外部(中国減速・貿易摩擦)ですが、それが会社自身による異例の下方修正という内部イベントとして表面化した瞬間に売られた点が核心です。同日のS&P500(-2.39%)を大きく上回ったことが、これがマクロ全体ではなくApple固有のショックだったことを物語ります。

💡 学び本シナリオの核心。引き金は外部(中国減速・貿易摩擦)だが、それが『会社自身による異例の下方修正』という内部イベントとして表面化した瞬間に株価は約-10%。同日のS&P500(-2.39%)を大きく上回り、これがマクロ全体ではなくApple固有のショックだったことを示す。

出典: SEC EDGAR (2019-01-02) / CNBC (2019-01-02)

所属軸: 内部 (企業・業界ファンダ) ・ カテゴリ 1

企業固有 (ミクロ)決算(予告どおり)/ サービス成長

Q1決算とサービス過去最高 — 出尽くしで翌日+6.8%

1月29日引け後の第1四半期(FY2019)決算は、売上843億ドル(前年比-5%)と1月2日の予告どおりでした。注目はサービス売上が109億ドルと過去最高を更新した点。売上悪化は下方修正で既に織り込み済みだったため出尽くしで反発し、翌30日に株価は**+6.8%上昇しました。悪材料は“発表時”ではなく“予告時”に織り込まれること、そしてiPhone以外の別の成長軸(サービス)**が評価の支えになることを学べます。

💡 学び売上の悪化は1/2の下方修正で既に織り込み済みのため『出尽くし』で反発。さらにサービス過去最高という別の成長軸が好感された。悪材料は“発表時”ではなく“予告時”に織り込まれること、iPhone以外の柱が評価の支えになることを学べる。

出典: SEC EDGAR (2019-01-29) / 9to5Mac (2019-01-29)

所属軸: 内部 (企業・業界ファンダ) ・ カテゴリ 1

企業固有 (ミクロ)決算 / 自社株買い / 増配

Q2決算と750億ドルの自社株買い — 翌日+4.9%

4月30日引け後の第2四半期(FY2019)決算は売上580億ドル(前年比-5%)と減収ながら、サービスは115億ドルと再び過去最高を更新。あわせて750億ドルの自社株買い枠を承認し増配も発表しました。翌5月1日に株価は**+4.9%**上昇。下落局面を作った内部要因(成長鈍化)を、サービス成長と大規模な資本政策という別の内部要因が打ち消した、回復の主役となるイベントです。

💡 学び減収(前年比-5%)でも、サービスの過去最高更新と750億ドルの大規模自社株買いという資本政策が株価を押し上げた。下落局面を作った内部要因(成長鈍化)を、別の内部要因(サービス+自社株買い)が打ち消した回復の主役。

出典: SEC EDGAR (2019-04-30) / Apple World Today (2019-04-30)

所属軸: 内部 (企業・業界ファンダ) ・ カテゴリ 1

地政学・外部イベント貿易摩擦・報復関税

中国の報復関税で再下落 — 当日-5.8%

5月10日に米国が対中関税を25%へ引き上げたことを受け、5月13日に中国が600億ドル相当の米国製品への報復関税を発表。ナスダックは年初来最大の下落となり、生産・販売の両面で中国依存度の高いAppleは指数以上に売られ、当日**-5.8%**下落しました(同日SPYは-2.51%)。サービスや自社株買いという内部の回復材料があっても、外部(地政学・貿易摩擦)ショックが短期の主役になりうることを示すイベントです。

💡 学び回復途上でも、外部(地政学・貿易摩擦)ショックには勝てない局面がある。生産・販売の両面で中国依存度が高いAppleは指数以上に売られた(同日SPYは-2.51%)。内部の好材料があっても、外部要因が短期の主役になりうることを示す。

出典: The Washington Post (2019-05-13) / CNBC (2019-05-13)

所属軸: 外部 (マクロ・環境) ・ カテゴリ 7

各出来事の出典は、上の解説それぞれの末尾に記載しています。

お疲れさまでした 🎉

別のシナリオでも「なぜ動いたか」を分解してみましょう。